れて御覧の通りの有様

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「、そこのテーブルの陰に座りこんでカガノンが一人で料理を食べていた。
「これはこれは、カガノンさんじゃありませんか。そんなところで何してらっしゃるんです」
「Pさんこそ、ひどい有様ですね」
「酒の洗礼を受けたので、私もお返しをしたら、集中的にやり返されて御覧の通りの有様です。アマノン国の宴会というのは大体こんな調子ですかね」
「まあ今夜あたりのがごく標準的な宴会です」とカガノンは落ち着いた、というよりも瞑想《めいそう》を中断してしゃべりだしたような、沈んだままの声でいった。「もうそろそろ引き上げの潮時だと思いますよ。これ以上付き合っていると、上品とは言いかねる光景を見なければいけなくなります」
そう言われてPは、乱酔の果てにあちこちで酒と胃液と食物の混合物を口から噴出する光景を想像した。さしあたりそれ以外のことは頭に浮かばなかったので、Pはやがて始まりそうだというこうした宴会の帰結ともいうべき奇怪な光景を目撃する機会を逸することになった。
「閉会の時に謝辞を述べることになっているんですが」とPが気にすると、カガノンは首を振って言った。
「ここまで来るともう閉会の挨拶《あいさつ》どころではありません」
「それではこの辺で退散することにしましょう」
「署の宿舎までお送りします」
Pはお礼を言うと、ずぶ濡《ぬ》れで重たくなった夜会服のまま、瞬《またた》きをしない星がボタンのように光る夜空の下を歩いていった。カガノンの態度も取調べの頃とは打って変わって丁重になっていたが、これは中央から、それも政府の高官から直接の指示があって、Pの立場が単なる不正入国者からある種の重要人物に昇格したことによるのだろう、とPは単純に考えていたけれども、そのうちにカガノンのPに対する態度の変化の裏にはもっと複雑な事情が伏在しているような気がしてきた。例えば、この老練な刑事は実はPの身辺の護衛、あるいはPの監視を命ぜられているのではないだろうか。Pがそのことで探りを入れようとした時、相手の方から機先を制するように「実は」と言われたのである。
「実は、適当な折がなくてまだ申し上げていなかったのですが、今回私はPさんに随行してトキオに行くことを命ぜられたのです」
「やっぱりそうでしたか」
Pは嬉《うれ》しいとも失望したともとられないように慎重な口調を選んだ。
「御迷惑でしょうか」
「とんでもない、この国に来て一番気心の知れたカガノンさんにトキオに連れていっていただければ、こんな心強いことはありません」
「私がお連れするのではなくて、侍従としてお供をするんです。そしてトキオでもずっと侍従役を続けることになると思います」
Pの鼻にあの独特の臭《にお》いが甦《よみがえ》った。これからはこの臭いに終始つきまとわれるのかと思うとかなり憂鬱《ゆううつ》になったが、しかしPは根が楽天的にできているので、それでも臭いにはやがて慣れるだろうと高を括《くく》って、ここからは急遽《きゆうきよ》この新たな事態を喜ぶことに態度を決めた。
「それは私にとっては願ってもないことです」とPは言った。「ただ、私の方は大変有難いのですが、カガノンさんにはかえって御迷惑ではないかと心配になります。というのは御家族、つまり奥さんやお子さんを残したまま長期の赴任ということになるだろうし、第一、侍従と言えば私の家来か何かのようじゃありませんか。私は一介のパードレ、宣教師にすぎません。モノカミ教の方ではパードレに従う弟子というものはありますが、下僕《げぼく》、召使いを抱えるという習慣はありませんね。いずれにしても、これは困ったことです」
「最初の点についてはどうやら誤解してらっしゃるようですが、私はラオタンですから妻子というものはいないのです」
「それでは独身の方をラオタンと言うわけですね」
「そうじゃなくて、ラオタンは原則として独身なんです。中には養子をもらっているのもいますが、ラオタンが妻をもつなんてことはありえない。それはそうですよ、そんなことは不可能ですから」
「何か性的な理由のために、ですか」
「ええ。当たり前の話ですが」
「すると何ですか、ラオタンは同性愛|嗜好《しこう》の男か何かで……」

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